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ガルゲンフモール(Galgenhumor)

ドイツ語。063.gif048.gif072.gif

 ドイツ語に<ガルゲンフモール>という言葉があるそうです。
 直訳すれば<断頭台上のユーモア>とでもいうのでしょうか。ある人はこの言葉を<曳かれ者の小唄>と、しゃれた訳しかたをしていました。
 ガルゲンフモール、という言葉をきいて、ぼくがすぐに思い出すのは、例の有名なフランクルの『夜と霧』という本のことです。
 皆さんもすでにご存知でしょうけれども、この『夜と霧』は、ウィーンの医学者でもあるフランクルが、家族とともにナチス・ドイツの手によってアウシュヴィッツに送りこまれ、そこで奇蹟的に死の収容所から生還してくる感動的なレポートです。
 フランクルはユダヤ人でした。そして、そのために愛する妻や娘たちをアウシュヴィッツで失わなければなりませんでした。
 強制収容所における彼の体験をつづったレポートが、邦訳『夜と霧』として刊行されたのは、もう何十年も昔のことです。
 しかし、ほそぼそとではありますが、今もなおその本が読まれ続けていることは、今の大量生産大量消費のジャーナリズムの世界では一種の奇蹟のような感じさえします。ぼくは若いころ『夜と霧』に出あって、それ以来ずっとこの本のことを考えつづけ、喋りつづけてきました。
 ぼくにとって大事なのは、例によって筆者が書こうとした本筋の部分よりも、なにげなく触れられた短い文章の断片です。
 <アウシュヴィッツ>というのはドイツ語です。ポーランド語では、<オシヴェンチム>といいます。ポーランド南部の古都クラクフから少し離れたところに、霧の深い、湿った土地があり、そこにヒトラーのナチス・ドイツは、ユダヤ人絶滅のための恐怖の収容所を建設したのでした。そこで起こったことについて、ここで詳しく説明する必要はないでしょう。皆さん方がすでにご存じの通りです。
 オシヴェンチムのような死の収容所は、ポーランドをはじめとしてヨーロッパ全体に何百と点在していました。
 そのすべての収容所で人工的に処理されたユダヤ人、ポーランド人、ロシア人、ジプシー、レジスタンスのひとびとの数は、四百万とも六百万とも言われます。正確な数字は今なお論議の対象となっています。
 フランクルたちも、その死の収容所の中で、人間としてこれ以上は生存することのできないと思われる極限状態を体験したのです。彼が生還できたのは、おそらく彼を支える科学者としての知性と、信仰、そしてあくなき人間に対する希望、そういうものであったにちがいありません。
 しかし具体的には、それらの強い精神は、日常生活の瑣事としてあらわれてきます。
 フランクルは、ほとんど栄養失調の中できいた、どこか遠くからきこえてくる古い懐かしい音楽のメロディーのことを記録しています。
 そして強制労働のさなかに、水たまりに映った風景が、あたかも古典的な名画のようであった記録も、書き落としてはいません。
 それにしても、ぼくの気持ちを惹きつけたのは、彼らが極限状態の中においてもユーモアを持ちつづけようとした必死の努力でした。
 フランクルたちは仲間と約束を交わしあいます。どんなに苦しくても、どんなにつらくても、人間には笑いが必要だ。だから、一日に何か一つ、心から笑えるような、そういうおもしろい話を考えだして、お互いに笑いあおうじゃないか。
 そして彼らは、冗談など考えつくこともできないと思われる悲惨な恐怖の中で、魂をしぼり出すようにして滑稽な話を考え、愉快なジョークを披露しあうのです。
 そして、おそらく力なくかすかに頬をゆるめて笑いあったにちがいありません。
 このようなユーモアが、たぶん<ガルゲンフモール>というのではないかと思ったりもします。いや、ひょっとするともっとグロテスクな、もっと逆説的な深みを含んだ言葉でしょう。
 だが、なぜかぼくは<ガルゲンフモール>といえば、このアウシュヴィッツでの囚人たちの必死のジョークを思い出すのです。
〜「3章:悲む」より。


生きるヒント―自分の人生を愛するための12章 (角川文庫)

五木 寛之 / 角川書店





ポーランド語ではオシヴェンチム。忘れてた。048.gif





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1章:歓ぶ(よろこぶ)
2章:惑う(まどう)
3章:悲む(かなしむ)
4章:買う(かう)
5章:喋る(しゃべる)
6章:飾る(かざる)
7章:知る(しる)
8章:占う(うらなう)
9章:働く(はたらく)
10章:歌う(うたう)
11章:笑う(わらう)
12章:想う(おもう)

筆者からのメッセージ

解説(岡田幸四郎)

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by lisaloeb0401 | 2009-12-07 23:39 | 英語など外国語・言語

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